準備書面(9)
平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
2010年2月22日
準備書面(9)
岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
原告訴訟代理人
弁護士 位 田 浩
本準備書面は、裁判所の2010年1月18日付け事実整理案について、意見を申し述べるものである。
記
1 事実整理案の概要
裁判所の事実整理案の構成は、おおむね次のとおりである。
第1 請求の趣旨
第2 事案の概要
1 事実の概要の概要
2 前提事実
(1)当事者
(2)原告と山陽新聞販売との新聞販売委託契約の締結
(3)原告と山陽新聞販売との新契約の締結
(4)原告と山陽新聞販売との取引の開始からその後の終了までの経緯
(5)原告と山陽新聞販売との取引状況等
(6)独禁法の規制と公取委による北國新聞社に対する勧告
3 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、押し紙の強要による不法行為の成否(主位的請求)と押し紙が公序良俗違反となる
ことによる不当利得の成否(予備的請求)である。
(原告の主張)
(1)山陽新聞販売は、原告に対し、購読部数とは無関係に、原告が購入すべき月々の目標数を決定し
た上、目標数以上の「仕訳日報表」を作成・提出させて取引部数とし、この取引部数を原告に供給して
いたが、この山陽新聞販売の行為は不法行為を構成する。
(2)山陽新聞販売が原告に押し紙を強要していた根拠
ア 山陽新聞販売が原告の購読部数を知っていたこと
イ 山陽新聞販売が押し紙を強要することには利益があるが、原告には利益がないこと
(3)押し紙の強要は、販売店が新聞社の圧倒的支配下にあり、新聞社の要請を拒むことができないため
に生じるもので、独禁法の禁じる不公正な取引であり、公序良俗にも違反する。
(4)被告らの不法行為責任
押し紙の強要は、不法行為に当たる。被告販売会社による原告に対する本件押し紙は、被告新聞社
の販売方針に基づくものであるから、被告らの行為は民法719条1項の共同不法行為にあたる。
(5)被告販売会社の債務不履行責任
被告販売会社は、新聞販売委託契約み基づく保護義務として、原告に押し紙を強要してはならない義
務があったにもかかわらず、これに違反した。
(6)予備的請求(不当利得)
(7)請求のまとめ
(被告の主張) (1)〜(3) 略
2 原告主張の整理について
事実整理案第項の(原告の主張)について、原告の請求原因をまとめていただいたものであるが、原告の訴
状や準備書面における主張に沿った整理をしていただくようにお願いしたい。
(1)被告らの責任原因に関する原告主義主張について
原告は、被告らによる押し紙が独占禁止法に違反する不公正な取引方法にあたり、違法であって、債務不
履行または不法行為に該当するとの主張を行っている。そのうえで、被告ごとに責任原因を次のとおり主張し
ている。(訴状の請求原因や原告の準備書面(2)及び(7)等を参照されたい。
「1 被告東販売及び被告西販売の債務不履行責任又は不法行為責任
山陽新聞販売及び被告西販売は、長年にわたり原告に対して違法な押し紙を続けてきたものであり、以
下に述べるとおり、債務不履行又は不法行為に基づき、原告がこうむった損害を賠償する責任がある。
(1)一般に、新聞販売店の店主は小資本の個人商店が多い一方で、新聞社やその子会社の新聞販売会社
の指定する区域において新聞社らの指示する新聞を販売・配達させている。また、新聞社らは、購読者数
の拡大のために、他のライバル紙の販売店の動向をチェックし、新聞販売店に対して拡張員を受け入れさ
せたり、無代紙(サービス紙)の配達や景品の配布等を指示したりしている。これに対し、取引上圧倒的劣
位にある新聞販売店は、新聞社らから強制改廃を受けるおそれがあることから、常に新聞社または新聞
販売会社からの指示や送付される部数を受け容れざるを得ない状況ににある。その結果、新聞販売店
は、購読者のいない押し紙の新聞原価を新聞社に対して負担しなくてはならないという不利益と損害をこう
むることになる。
そのような新聞販売店の不利益及び損害の発生を防止するために独占禁止法が「新聞業における特定
の不公正な取引方法」として「押し紙」を禁止していることからすれば、山陽新聞販売及び被告西販売は、
継続的取引契約である新聞販売委託契約に付随して、信義則上、原告に対し、押し紙による不利益が生
じないようにするため、その注文部数(実売部数に2%程度の予備紙等を加えた部数)を超えて新聞を供
給してはならない保護義務があるというべきである。
(2)これを本件についてみると、原告の岡輝販売センターにおいて、2003年2月には実売部数が1707部
となり、同年6月からは1700部を割り込んでいたことについて、山陽新聞販売は、原告からの申告ないし
読者一覧表からこれを認識し、あるいは認識しえたのであるから、送り部数をただちに実際の購読部数に
2%程度の予備紙を加えた部数にすべき義務があった。しかしながら、山陽新聞販売及び被告西販売は、
送り部数を減少させることなく、押し紙を続けた。
以上のような山陽新聞販売及び被告西販売の行為は上記義務に違反したものといわざるをえず、その
結果、原告は違法な押し紙の新聞原価の支払いを強いられたものであるから、債務不履行責任に基づ
き、山陽新聞販売及び被告西販売は原告のこうむった損害を賠償する責任がある。
(3)山陽新聞販売及び被告西販売による押し紙は、独占禁止法が禁止する不公正な取引方法に該当し、同
法19条に違反する。
独占禁止法は、一般消費者の利益を確保し、かつ国民経済の民主的で健全な発達の促進を図ることを
究極の目的とし、その目的を達成するために不公正な取引方法を禁止しているが、これによって、競争関
係にある他の事業者のみならず、他の事業者と取引し、または取引しようとする一般消費者も、自由競争
の下で自由な取引をする利益が認められ、かち保護されていることからすれば、同法違反の行為は、民法
709条との関係においても、特段の事情のない限り、違法な行為である。(大阪高評平成5年7月30日判
夕833号62頁以下参照)。また、少なくとも不公正な取引方法により直接不利益をこうむる取引の相手方
との関係においては、当該行為は不法行為に該当するというべきである。
したがって、山陽新聞販売及び被告西販売による押し紙は、民法709条の不法行為に当たり、山陽新
聞販売及び被告西販売は不法行為責任に基づき、原告のこうむった損害を賠償する責任がある。
(4)被告山陽新聞社は、2006年12月1日会社分割により山陽新聞販売から被告岡山西販売を新設する
とともに、山陽新聞販売の商号を被告東販売に変更した。
原告は、会社分割における債権者保護のための催告を受けておらず、被告東販売と西販売はともに、山
陽新聞販売の原告に対する債務を弁済する責任を負う。
2 被告山陽新聞社の責任ー不法行為責任
被告山陽新聞社は、山陽新聞販売、(被告東販売)及び被告西販売の親会社であり、両被告を通じて、
商品である山陽新聞の販売を行っている。被告山陽新聞社の販売局は、各販売会社を実質的に支配し、
その販売政策として実売部数を大幅に超える送り部数を原告ら販売店に送りつけていた。被告山陽新聞
社は、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売を使って原告に対して違法な押し紙を行って
いたのである。
したがって、被告山陽新聞社は、不法行為責任に基づき、原告のこうむった損害を賠償する責任があ
る。
なお、被告山陽新聞社の不法行為責任と被告東販売及び被告西販売の不法行為責任とは、民法719
条1項の共同不法行為にあたる。
(2)「押し紙の強要」という表現について
裁判所は、注文部数と取引部数との差を「押し紙」とし、優位的地位を利用して押し紙を強要したことがか
ねてから問題とされてきたと整理している。(事実整理案7頁)。
しかし、原告は、事実整理案にあるような「押し紙の強要」という表現を必ずしもしていない。原告は「被告
らが原告に対して、実売部数に2%の予備紙等を加えた注文部数をこえる部数を供給したこと(=押し紙)
が債務不履行または不法行為に該当すると主張しているのである。押し紙という取引方法自体が優位的
地位を利用した不公正な取引方法にあたり、独占禁止法に違反する違法行為だからである。甲5〜10や
甲70を精読されたい。
したがって、事実整理案において「押し紙の強要」又は「押し紙を強要した」とある部分は、単に「押し紙」
又は「押し紙をした」とするか、「優位的地位を利用した押し紙」又は「優位的地位を利用して押し紙をした」
と整理してもらいたい。
(3)「架空領収書の存在」について
事実整理案13頁16〜17行目に「平成13年から14年ころ、当時の担当者(赤木本部長、小林副本部
長)から」とあるが、原告の準備書面(1)2頁〜3頁において、「担当者は、2003(平成15)年8月頃から2
004(平成16)年3月頃までは千房、同年4月頃から2005(平成17)年6月頃まで赤木、同年7月頃から
2007(平成19)年11月頃まで小林であった。」「2001年〜2002年ころ、当時の担当者から、・・・(中
略) ・・・架空の領収証を作るように教えられたものである。」と主張している。したがって、「赤木本部長、
小林副本部長)」の部分は、原告の主張と矛盾するものであるから削除されたい。
なお、原告の準備書面(5)7頁に「原告に対して架空領収書の作成を指示してきたのは、山陽新聞販売
の赤木本部長や小林副本部長らである。」とあるが、表現が不十分で裁判所の誤解を招いたものと思われ
る。ここでは、赤木本部長や小林副本部長が2001年から2002年ころに原告名義の架空領収書の作成
指示をしたと主張しているのではなく、、同人らの担当していた当時にも、ABC部数調査に備えて架空領収
書の作成を含む様々な偽装工作の指導があったと主張しているのである。
3 その他
事実整理案には明らかな誤り等が認められるので、いくつか指摘しておきます。
(1)7頁18行目及び19行目
「購読部数」→「取引部数」
(2)13頁3行目
「てこれらの事情は」→「これらの事情は」
以上
平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
平成22年2月15日
岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
被告ら3名訴訟代理人弁護士 香 山 忠 志
準備書面
1 原告との「取引部数」は別紙部数比較表の取引部数欄記載のとおりである。原告の主張する「送り部数」の数 値は否認する。